2007年 10月 29日
僕のブログに昔からいらして下さる方には申し訳ない。 何度も説明をしたけど「ネット番組」について、もう1回書く。 平成15年の経済産業省の資料を基に「テレビ局が放送しかしていないのに、スポンサーからのお金を抜いて現場にはちょっとしか渡らない」という話がネットに広まってる。 多分火種はここかな。 「切込隊長も一言で解説していたし、どこかで冷静な議論になる」と思って放っておいたのだけど、それもない。 業界人が「既得権益です」とかしゃべったのがすでにブログのソースとなってるみたいだし。そんなうまい話あるわけないじゃん。つか、代理店… 解説。 テレビ局はアニメのお金の中抜きをしているか? 答えは否。テレビ局は商売をしてるだけ。 この世には、「黒ネット」と「白ネット」という2つの番組販売方法がある。 「黒ネット」は、「ネットタイム」とも言われ、全国放送でキー局がスポンサーを見つけてくる番組。ゴールデンタイムのほぼ全ての番組がこれにあたる。アニメでいうと、コナン(小学館他)やサザエさん(東芝他)、ワンピース(バンダイ他)とかだね。(追記:ワンピは昔のワンピね。いまはゴールデンから出てる。) さて、言うまでもないがスポンサーは「CM」を流すためにお金を出している。(そして、このCMの料金でテレビ局は収入を得ている)この時スケールメリットを出すため、そして全国展開というスポンサーからの要望にこたえるため、全国の系列地方局の「放送枠」を抑えて、「全国一律放送」を実現する。 テレビ局は集めたCMの料金のうちから、系列地方局に「放送枠代」、正確には「その抑えた枠の中でCMを流した代金」を払う。 一方、地方局は「番組販売費」を払う。じゃあ例えをコナンにすると地方局は「コナンの中で流れる小学館のCM」の料金を貰う代わりに「コナン」という番組をキー局から「買う」。(だから古い用語ではフルネット局のことをmust buy局とか言う)。これに加え地方局は、CMを代わりに売ってきてもらった手数料という意味で「特別ネット分担金」も払う。 ここまでが、キー局が全国で放送するための「枠の仕入れ」に掛かるお金。そしてキー局の手元には全地方局から集めた「番組販売費」「特別ネット分担金」と、「自社CM分として引いたお金」(これが大きい)が残る。 このお金を使って、キー局は番組の制作を行う。もちろんテレビ局はアニメーションを作る機能を(簡単なもの以外は)持っていないのでプロダクションに発注する形となる。 (厳密には予算委員会方式をとっているキー局も多く、単一番組での売り上げの赤字黒字を見ないところも多い。) 1ついえるのは、この方法は巨大なお金を動かすことが出来る「恵まれたコンテンツ」であることだ。こんなのできるの、正直あんまりない。 黒ネットであることで一定のお金は既に保証され、ゴールデンタイムに流されることで、多くの視聴者に訴求できる。ということはDVDやキャラクターグッズの販売も成功しやすい。(ここで、著作権をどちらが持つかという話が出てくる。法上はもちろん制作者にあるが契約により局に移動している場合も多い。窓口権だけテレビ局に残す場合もある。) テレビ局としては、実はタイムの利益率はそんなに高くない。アニメ離れが進んでいる現状、アニメをゴールデンタイムにかけるというのは、視聴率を押し下げる効果すら生んでいる。が、編成上「全視聴層に訴求する」ために、残されていたりもする。 一方「白ネット」はスポンサーがない番組のことを指す。多くの場合ゴールデンタイム以外の番組だ。(非常にざっくりだけどね) これは、キー局が地方局へ「番組を販売」することにより、お金を集め、それにより収益を図るものだ。 この場合、地方局は「番組」を買い、中のCM枠を「自局のスポットCM」用に使用する。(CM枠が埋まっていない=真っ白=白ネットだ。) しかし地方テレビ局からすればmust buy指定を掛けられない限り「わざわざ高い金出して買ってまで」アニメソフトを使う魅力がないのが現状だ。なぜなら多くのスポンサーは「アニメ・マゲ・サスペンスへのオンエア不可」というスポット線引き上の制限を行っているからだ。これはスポンサー(もしくは代理店)が持っている独自データ上、「そこにCMを出しても効果がない」もしくは「ターゲットと合致しない」となっているからだ。(サスペンスの場合にはちょっと事情が違っていて、保険金殺人とかテーマなのに生命保険CMを流したりとか、薬物殺人で製薬会社のCMを流したりとか、洒落にならないから。)(追記:マゲ=時代劇) 地方で見られるアニメが少ないというのはここに起因する。キー局・準キー局レベルならば、それでもまだ「深夜アニメ希望」のスポンサーもいるし後述の「戦略」のためにアニメを編成する余力があるが、地方局にはそれも無理だ。 という訳で深夜アニメなんか、数少ないアニメ編成局の「番組販売費」のみで制作しなければならない。そして正直これは無理な作業だ。金額が1~2ケタ足りない。(ちなみに番組販売費が気になる人は、計算してみればいい。年間30億売り上げの地方局が1/3を番組販売費に使うと仮定すれば、その金額を365日で割りさらに48で割ると30分番組のものすごいざっくりとした単価が出る。ちなみに局の売り上げ比や人口比で番組単価は変動する。) ではどうするか。この足りないお金は「キー局」の「持ち出し」(赤字)によって補われる。 何故赤字を許容するか?それは「あたったらデカイ」からだ。当たるか当たらないかは宝くじみたいなもので興行の常なんだけど、一度当たれば映画化、DVD、キャラクターグッズ展開…でこれまでの赤字を取り戻すことが可能なわけだ。こういうの「戦略番組」といわれたりする。 これが主なテレビ局の商売方法だが、最近では「製作委員会方式」、(業界内では多分「テレビショッピング方式」という方が通りがいい)という方法も存在する。 これは製作委員会がテレビ局から「放送枠」を買い、そこにアニメを流すやり方だ。 テレビ局からすればテレビショッピングを流すより(はるかに)実入りは少ないが、番組の風体をなしているのでコンテンツ充実という意味で、まぁ我慢が出来るという手法だ。金銭的に我慢が出来ない局はやめていったので今じゃあこの手法とるのはtxくらいだけどね。(追記:首都圏の独立U局はバリバリです。) 一方製作委員会からすると「プロモート」としてテレビ局の電波が使用できるという点で魅力がある。 で、何を狙っているかといえばやはり、映画化、DVD、キャラクターグッズ展開による「当たり」だ。それと多少はスポンサーが期待できるだろうか。(30分買い切っているので、この場合CMの料金は製作委員会に入る。使わない場合は空で局に返したりもする。) ちなみに製作委員会方式で地方展開をした例は聞いたことがない。少なくともうちでは引き合いがない。もしも引き合いが来ても比率から考えると「それはあんまりにあんまりな金額じゃありませんか?」レベルになるだろうけど。 ネット界隈では、この「テレビショッピング」方式と、経済産業省の「黒ネット」方式を混同して話をする向きが非常に多い。(テレビショッピング方式だとそこまでテレビ局の取り分である放送枠料金は高くない。1回あたりの放送枠は、例えキー局でも無理すれば僕でも買えるくらいの金額だ。) あと触れていなかったけど黒ネットで代理店が2割のマージン持って行く件について。 簡単に説明すると代理店って、新聞や雑誌やネット込みで広告全般の計画立案をしたり、そのためのCMを作ったりしている(まぁCM制作は別途お金が出る場合が多いが)。2割はその手数料だ。 さて、ここまで書けば 「5000万円がこんなに中抜きされて・・・」とか書く人は「5000万円が何に対して向けられたお金か」を意識せずに、もしくは敢えてごっちゃにしているのだと気付く。 5000万はCMを流すためのお金で、アニメコンテンツを作るためのお金じゃないってことだ。 アニメーター自体が産業的に辛いという話は良く聞くし、それは将来的なコンテンツ衰退を招きかねないとは思うが、それはこの構造とは別の話だし、むしろ局主導の「黒ネット」ではなく、製作委員会の主導するアニメの方がよっぽど金がない構造だ。(先行投資型となるし、外した場合大変。) それに、テレビ局とすれば「2倍制作費を突っ込んだら、2倍の視聴率が取れるか」と聞かれたら苦笑いするしかない。 今以上の視聴率はおそらく見込めない。ゴールデンタイムのアニメはおそらくじわじわとなくなっていくだろうと思う。 深夜アニメについては・・・どうだろね。今たくさんあるから、これが儲けていたら続くんじゃないの?儲けていなかったらテレビからは撤退して別の方策を探すだろうさ。それこそ手法はいろいろあるだろうし。 要は、アニメの市場規模自体が小さいというのが一番悪いって話。 (追記:ここの図解、非常に分かりやすいです。感謝。)
by soulwarden
| 2007-10-29 22:04
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